生きてくだけで息も絶え絶え

人並みの生活って大変だ

夢うつつ

 小さな頃、よく不思議な夢を見ていた。洋画でたまにみる、大きなエントランスホールで恐竜のような、トロールのような、大きな動物みたいなものから逃げている夢だ。1階の正面ホールには破壊された石像が無惨に放置されていて、石像の両脇から2階へ上がる為の階段が伸びている。2階から転げ落ちそうになりつつも辛うじて降りてきて、階段裏にある子供が2人ようやく入れる程のスペースに、自分を含めて3人の子供がぎゅうぎゅうになりながら息をひそめている。獣臭さ、息づかい、鼓動のうるささ、恐怖心、階段の高さ、体の震え、そんな全部が生々しかった。

 

 1人暮らしをはじめる少し前のある夜体験したことは、未だに夢か現実か、区別がつかない。収納付きの作り付けベッドに寝ると、ベランダに足を向ける形になる。ベランダへ向かう大きな窓の上にはエアコンが取り付けられていて、部屋の電気を消すと電源の赤い光がひとつ、ついているのがよくわかった。1度は目を閉じて暗闇を眺めていたはずなのに、気付くと仰向けになって目が覚めている。あれ、と思っていると視界の右側で黒っぽ塊が動いた。目で追うと、エアコンの右側1/3を覆うような形でピタリと動きを止める。「あ、やばい」と思った時には、真っ赤な目をした黒い塊が飛びかかってきていた。それと同時に、体の左側を無数の手が掴んで、ベッドから引き摺り下ろされる。左半身を強打し、混乱したままベッドを見ると、黒い塊は蜘蛛のような形でそこにいたが、掴まれた腕と足に視線をおとして再度見たベッドには何もなかった。左側の生々しい感触だけは、明け方まで消えなかった。

 それから度々、「これは夢だな」とわかる夢を見るようになった。必ず、自分が殺される夢だ。銃で撃たれたことも、ナイフや刀で刺されたことも、首を絞められたことも、プレス機にかけられたこともないけれど、夢で受けた痛みは起きた時の肉体に残っている。夢だとわかっているから、なんとか相手から逃げようとする。現実の音を拾おうとする。起きようとする。だから余計に疲れるのかもしれない。疲れるのは現実だけで十分だ。夢はみたくない。